女性にまつわるさまざまなエピソードを軽妙なタッチでつづったエッセー「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」など、新刊を出すたびに大きな反響を呼んできたコラムニストのジェーン・スーさん。そんな彼女が今回題材に選んだのは「父の話」。「母親を亡くしてからのこの20年で、父と親子関係の再構築をしてきた記録をどこかに残したいという気持ちがあった」と話すジェーン・スーさんに、新刊「生きるとか死ぬとか父親とか」、現在のお父さんとの関係、そして私たちが考えるべき父親とのことについて伺いました。

ジェーン・スー

コラムニスト/ラジオパーソナリティー/作詞家
音楽クリエイター集団agehaspringsでのプロデュースや作詞家としての活動に加え、自意識をこじらせた大人たちへのパンチラインが話題を呼び、2013年10月「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」(ポプラ社)を出版。2作目の「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)が第31回講談社エッセイ賞を受賞。
2016年4月よりTBSラジオ番組「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~金11:00~13:00)でパーソナリティーも務める。

親の死が比較的リアルになってきたタイミングだから書けた

 父の言葉が真実かどうか、私には知る術もない。事実は、父が住みたい家に住むのに金が必要だということだけだ。
「いいよ」
 私は気前よく返事をした。横に座っていた女友達が「ええ!」と大きな声を出した。
 昨年は運よく稼げたので貯えもできたし、老人が住みたくもない家に住むのも忍びない。なにしろ父のプレゼンが面白かった。そして、私には算段があった。
 「いいけど、君のことを書くよ」
 金を出すと言われた手前、父も断れないはずだ。
 「いいよ」
 今度は父が気前よく言った。

ジェーン・スー著「生きるとか死ぬとか父親とか」「男の愛嬌」より引用

編集部:お父さんとのやり取りはこれまでラジオやエッセーなどでも紹介されていましたが、改めてこのテーマで書こうと思ったきっかけを教えてください。

ジェーン・スー(以下、スー):父の80歳の背中が見えてきた頃に、「父のことを何も知らない」と気付いたんです。母は最後まで「私の母親」で居続けたので、妻としての悩みや若い頃のことを直接本人の口から聞けなかった。それが心残りで。このまま父から何も聞かず、母のときに感じたような後悔をしたくないと思ったのがきっかけの一つです。親の死が比較的リアルなものとして目の前に見えてきたから、今のうちにという気持ちもありました。まあ、あと20年くらい生きられたら、それはそれで「おい!」という感じですけど(笑)。めでたいことなんですけどね。

 それだけではなく、父親の話をするとたいがいの人が喜んでくれるんですよ。父のエピソードはコンテンツとして優秀なんですよね。

編集部:お父さんのことを書く上で、意識したことはありますか?

スー:情緒に溺れるような、ジメジメした文章にはしないように気を付けました。父は何でも「さっぱり」話すのが好きな人。その気持ちは書き手としてくみたいと思いました。自分でも気に入っているエピソードは、「七月の焼茄子」でしょうか。戦争体験という身につまされるような話こそ、どこかにどうしても笑ってしまうやるせなさが生まれる。まさにそれが父の人生だなと思うので。