「色のない毎日」をどう変える?

――映画では冒頭のショッキングなシーンなど、死に結び付く描写が所々にありますが、どのような意図をお持ちだったのでしょう。

 人は目に見えない「何か」で引かれ合っていると私は思っていて、その「何か」に自分を委ねたときに、会うべき人に会ったり、遭遇すべき出来事に遭遇したりすると思うのです。今まで自分の心の叫びや感情を「薬」や「無視すること」によって麻痺させてきた節子が、冒頭の事件を目撃することで揺さぶられ、その「何か」に知らないうちに自分を委ねていく。冒頭で事件を起こす男が節子の後ろに立っていたのも、偶然ではありません。彼は節子が自分と同じ匂いのする人間だということを「何か」で無意識的に分かっていたと思います。シンクロニシティー(心に思い浮かぶ事象と現実の出来事が一致すること)ですね。

――映画では、節子のハグの仕方が次第に変わっていきますが、これは監督が意図されたことでしょうか。

 そこは私が説明するのではなく、見ていただいた方にそこにある「何か」を感じていただけることを願っています。映画は100人が見たら100通りの解釈があってよいと思っています。それが映画の醍醐味ではないでしょうか。

――節子のように色のない毎日を過ごしながら心の底で変化を求めている独身女性は多いと思うのですが、彼女たちはどのようにしたら変わることができるでしょう。

 本当に難しい質問ですね。自分の経験からしか言えませんが、自分に正直になることが第一歩ではないでしょうか。シンプルに言えば、まず本当に自分は変わりたいと思っているのか、真剣に正直に自問自答すると、意外な答えが返ってくるかもしれません。

 突き詰めて考えると、実は自分は変わりたくないのではないか、ということもあり得ます。変わりたくないのであれば、それはそれでよいと思います。そして、そのありのままの自分をすべて受け入れる。

 もし、変わりたいと本当に思っているのであれば、何でもいいので普段、絶対自分がやらないことや苦手なことをやってみる。例えば、右利きであれば左手だけでしばらく暮らしてみるとか、苦手な人に「おはよう!」って言ってみるとか。自分を崩すことによって生まれるものや新しい発見があると思います。その時点で既に「何か」が変わっているのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

平柳敦子(ひらやなぎ・あつこ)
映画監督。長野県生まれ、千葉県育ち。高校2年生の時に渡米。ロサンゼルスの高校を卒業後、サンフランシスコ州立大学にて演劇の学位を取得。2009年シンガポールのキャセイ財団の奨学金を受け、ニューヨーク大学大学院映画学科シンガポール校に入学。13年、映画制作の修士号を習得。同大学院2年目に制作した短編映画「もう一回」(12年)が、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2012グランプリ、ジャパン部門優秀賞、ジャパン部門オーディエンスアワードをはじめ高く評価されたのに続き、桃井かおりを主演に迎えた修了作品の短編「Oh Lucy!」(14年)もカンヌ国際映画祭シネフォンダシオン(学生映画部門)第2位、トロント国際映画祭などをはじめ各国で35を超える賞を受賞。「Oh Lucy!」の長編バージョンである「オー・ルーシー!」(17年)は、脚本の段階でサンダンス・インスティチュート/NHK賞を受賞し、同賞のサポートを受けて制作された。第70回カンヌ国際映画祭・批評家週間部門に正式出品。プライベートでは2児の母で極真空手黒帯初段の保持者。

※「平柳」の柳は「木へん」に「夘」が正式表記


聞き手・文/大塚千春 写真/稲垣純也

【作品情報】
「オー・ルーシー!」
公開:4月28日(土)
配給:ファントム・フィルム
公式ページ:http://oh-lucy.com/