人間と人間の結び付きを描く

――初めて撮った短編映画はどんな作品だったのでしょう。

 シンガポールの屋台街、ホーカーセンターを舞台にした作品を撮りました。そこで、本を執筆しているように見せながら、実はいつも数独(パズルの一種)をやってヒマを潰しているおじさんと、ホーカーセンターで働く掃除婦のおばあさんとの関係を描いた作品です。おじさん役は孫の面倒を見に来てくれていた、義父が演じてくれました。セリフはなくても、人間と人間の結び付きを描きたいと思った作品ですが、「オー・ルーシー!」も根っこにある主題は同じですね。大学院に通い始めた時、「あなたはどういうことについて書きたいと思っていますか」と聞かれて、「愛、孤独、死」と書いたのを覚えていますが、それは今でも変わらなくて、描きたいテーマは一貫しているように思います。

――初の長編監督作「オー・ルーシー!」への道のりを教えてください。

 大学院2年生の時に撮った、「もう一回」という映画が国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2012」でグランプリを受賞したんです。このことが、長編「オー・ルーシー!」の前に学校の卒業制作として撮った22分の短編「Oh Lucy!」につながりました。

 「もう一回」は、長らくアメリカにいた息子が日本に帰国して孤独死した母を見つけるという話で、ちょうど、この映画でグランプリを頂いた頃に、「Oh Lucy!」のオーディションをやっていました。第2子を妊娠中で生まれたら大変になるので、その前に撮らなくてはと必死になっていたんですが、なかなか主役が見つからなかったんです。俳優をイメージして脚本を書くことは基本的にないのですが、実はこの作品は執筆時から桃井かおりさんをイメージしていて。そうしたら、桃井さんは「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」の審査員を以前やられていたことが分かり、ダメもとで脚本とグランプリを受賞した「もう一回」を送ってみたら会ってくださることになり、ロサンゼルスまで会いにいきました。そして、出演していただけることになったんです。一つの作品が、何かに導かれるように次の作品につながっていく感じでした。

 「Oh Lucy!」の物語は、ライティングのクラスの課題から生まれたんです。制作にかかる1年前に、3週間で75の作品アイデアを書かなくてはいけないという課題がありました。コメディー、ドラマ、怪獣映画、ミュージカルなど、毎日テーマを与えられて5つくらいずつ必死で考えたんですが、その中に、「自分の周りにいる人物について書きなさい」という課題があり、そこで私が取り上げた人物の一人が「Oh Lucy!」の主人公となる節子でした。

 自分の本音を見せないようにして生きているOLで、脚本執筆に当たっては、どうしたら節子に本音をしゃべらせることができるかを考えました。そして長編では、どうしたら彼女が最終的に人生のコンパニオン、つまり自分を理解してくれる人を見つけることができるかまで発展させて考えた。長編「オー・ルーシー!」の脚本も、短編を撮影する前に初稿は完成していたんです。

 次回は5月11日に公開予定です。

聞き手・文/大塚千春 写真/稲垣純也

【作品情報】
「オー・ルーシー!」
公開:4月28日(土)
配給:ファントム・フィルム
公式ページ:http://oh-lucy.com/