トルコ系移民の夫と愛息をテロで失った女性が、絶望の中で下す決断を描くドイツ映画「女は二度決断する」のファティ・アキン監督が来日。本作は、ドイツで実際に起こったネオナチによる連続テロ事件に着想を得て生まれた作品です。移民問題に詳しい、日経ウーマンオンラインでもおなじみのジャーナリスト・増田ユリヤさんがアキン監督と対談し、今、私たちが知るべき世界の課題についてお話しを聞きました。

ファティ・アキン
映画監督。1973年、ドイツ・ハンブルクでトルコ系移民の両親のもとに生まれる。30代でベルリン、カンヌ、ヴェネチアの世界三大映画祭にて主要賞受賞。主な監督作に「太陽に恋して」「愛より強く」「クロッシング・ザ・ブリッジ~サウンド・オブ・イスタンブール~」「そして、私たちは愛に帰る」「ソウル・キッチン」「トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~」「消えた声が、その名を呼ぶ」「50年後のボクたちは」などがある。

増田ユリヤ(ますだ・ゆりや)
ジャーナリスト。1964年生まれ。国学院大学卒業。高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務め、世界中の現場を幅広く取材・執筆。日本テレビ「世界一受けたい授業」やテレビ朝日「グッド!モーニング」などでも活躍。日経ウーマンにて池上彰氏との対談「壁ドン! 世界史入門」連載。著書に「新しい『教育格差』」(講談社現代新書)「揺れる移民大国フランス」「世界史で読み解く現代ニュース」(共著)(ポプラ新書)などがある。

増田さん(以下、敬称略) 「女は二度決断する」を拝見し、監督は女性の気持ちをとてもよく捉えていると思いました。どうしたら、ここまで女性の胸をえぐるような表現をできるのでしょうか?

アキン監督(以下、敬称略) 私は結婚しているので、女性と20年ほど一緒に暮らしてきて、しっかりと観察した結果かもしれません。妻や、妻の女性の友達から、映画のキャラクター造形のインスピレーションを得ることがあります。私の目は大きいですから、観察者にピッタリなんです(笑)。

増田 ご両親が移民だそうですが、移民の家庭に育ったことは映画作りに影響していますか?

アキン すべてのことにおいて、バックグラウンドは影響していると思います。私はドイツ人ですが、二つのバックグラウンド(ドイツとトルコ)を持っています。その二つを比べることはあっても、ハンデになったことはありません。むしろそれを自分の利点に変えています。もちろん二つのバックグラウンドには影もあります。安全に暮らすべきホームタウンに、私の外見だけを見て、移民というルーツを持っているだけで、私を排除したいと思っている人たちがいることに、小さい頃に気付いてトラウマになりました。それは劣等感でも恐怖心でもなく、心を刺されたかのようなトラウマです。「女は二度決断する」は、このトラウマのある種の結果でもあると思います。