「離婚後はお金を稼がなくちゃいけない。でもパティ・ボイドが本気で仕事を探していると思ってくれる人はいなかった」
「離婚後はお金を稼がなくちゃいけない。でもパティ・ボイドが本気で仕事を探していると思ってくれる人はいなかった」

――エリック・クラプトンと別れた後、あなたは写真学校に通って技術を学び、プロのカメラマンとして仕事をするようになった。自分の力で新しい人生を切り開いたのですね?

 たくさんの痛みを得て、たくさん傷ついて、自分自身を見つけました。「クラプトン夫人」という存在だったとき、私は自分が誰なのかを見失っていました。彼に振り回され、彼との生活に疲れ果てて不幸せで、実は5~6年の間、ずっと撮り続けてきた写真のことまですっかり忘れてしまったくらいだったのです。

――スーパースターの妻であり、かつ自分自身の人生を生きるのは楽なことではなかったですか?

 彼らにとって、最も大事なのは創作活動。自分の欲求を満たすことが最優先で、妻は彼らを助けるために存在していて、すべての時間を彼らのために捧げなければいけない。それを当然のように求められました。ジョージと結婚後もモデルの仕事を続けようとしたけれど、彼がそれを望まなかったから諦めましたし、エリックとの生活でも彼が望むとおりの女であろうとした。しばらくはそれでよかったけれど、だんだんそうした生活が続けられなくなってしまいました。

――ひとりになって、どんなことに困りましたか?

 エリックと離婚した直後は、「有名なジョージの妻」でもなく、「有名なエリックの妻」でもない毎日をどう過ごせばいいのか分かりませんでした。慰謝料をたくさんもらったわけでもなかったので、ほとんどお金もありませんでしたし。その上私は普通の人には当たり前の日常の手続きに全く無知でした。例えば自動車税を払わなければならないことも知らなかったし、ガソリン代や光熱費の請求書や料金の支払いについても分からなかった。それまで、いつも周りにいる誰かがいつの間にかやってくれていたんです。そうした日常生活のこまごましたことをいきなり全部自分で処理しなくちゃいけない。現実の生活が一気に押し寄せてきてとてもショックでした。

 仕事をして、お金を稼がなくちゃいけない。でもパティ・ボイドが本気で仕事を探していると思ってくれる人はいなかった。何か技術を身に付けようと病院で栄養学を学んだりしたこともあります。そんななかで、写真ならアマチュアとはいえ長年撮影を続けてきたのだから、仕事にできるのはないかと思ったのです。写真学校に通って、撮影や現像を学び、作品を撮りだめ、テレビ局や新聞社にアプローチをするところから始めました。

――2005年のアメリカ・サンフランシスコでの展示を皮切りに、写真家としてこれまで世界各地で写真展を成功させています。たくさんの人があなたの写真を見るために会場に足を運んでくれることは、「“有名な男の妻”でいるよりも、ずっと気分がいい」と自伝にありました。日本で初の写真展でも充実感を味わっていますか?

 はい。ギャラリーの展示が非常に素晴らしくて、たくさんの人が来てくれていることに、とても感激しています。

――あなたに会えた感動で、涙ぐんでしまった女性ファンもいたとか。

(あわてて)なぜかしら!? なぜ私に会ってそんなに感激するのか、信じられないわ。でも、うれしかったですよ。ありがとう。

<インタビューを終えて>

 ロック少女だった筆者にとって、パティ・ボイドさんは中学生の頃から憧れのアイコンだった。「ギターの神様」エリック・クラプトンが、親友のジョージ・ハリスンから奪って妻にした女性であり、「VOGUE」の表紙も飾ったモデル。完璧な美人ではないところがむしろおしゃれでクール。そんな印象を長く持っていた。ところがベストセラーとなった自伝では、「有名な男性の妻」として生きるなかで自尊心を見失って苦しみ、彼らと別れて傷つきながらも精神的に自立していく姿が率直に書かれていて、胸を揺さぶられた。今回のインタビューでも、目の前にいる彼女は実に気さくで、ずけずけとした質問に時々困った顔をしながらも答えてくれた。写真を撮影したときのエピソードを生き生きと語る一方で、自分のことを「きれい」とか「憧れの人」などと表現されると、「恥ずかしいからやめて」というように手を振り、困った顔になる。あなたは「パティ・ボイド」なのに! と言いたくなるほど、飾らないのだ。そんな彼女の前で、夫や恋人、友人であったロックスターたちは安心して心を許したのだろう。今回の写真展には、まるで家族のアルバムのような、素顔の彼らがあふれている。
(日経WOMAN編集長 安原ゆかり)

「パティ・ボイド自伝~ワンダフル・トゥデイ」(筆者私物)
「パティ・ボイド自伝~ワンダフル・トゥデイ」(筆者私物)
パティ・ボイド写真展「George,Eric&Me~パティが見たあの頃~」

期間/開催中~5月14日(日)
場所/リコーイメージングスクエア銀座ギャラリーA.W.P 東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター 8F
電話/03-3289-1521
開館時間/11:00~19:00(最終日16:00まで)※入館は閉館時間30分前まで
休館日/火曜日
入場料/510円

パティ・ボイド写真展「George,Eric&Me~パティが見たあの頃~」(モノクローム版)

期間/開催中~4月28日(金)
場所/ギャラリーE&M西麻布 東京都港区西麻布4-17-10
電話/03-3407-5075
開館時間/12:00~18:00(最終日16:00まで)
休館日/日曜・月曜日
入場料/1000円(オリジナルグッズ付)

パティ・ボイド写真展特設ウェブサイト/http://www.pattie.club