およそ10年にわたり、フランスで移民・難民の取材を続けてきた増田ユリヤさん。足繁くフランスに通う間に、移民や難民の人たちだけでなく、さまざまなフランス人女性にも話を聞く機会に恵まれました。若くして結婚しながらも働き続け、外資系企業で管理職となったキャリアウーマン、82歳の現役バレリーナ、シングルマザーからアラフォーにして再婚・出産・会社経営を一気に実現した女性……。どの女性も「実にいきいきと人生を謳歌していた」と言います。
一方、日本人女性は何かと人目を気にしたり、他人と比べて落ち込んだりしがち。もっとのびのびと人生を楽しむには、どうすればよいのでしょうか?


“私”に忠実なフランス人女性

 フランス人女性というとお洒落で恋愛上手、それでいて仕事もできる自立した女性というイメージが浮かんでくる。

 「フランス人女性は“自分の欲”にとても忠実です。自分がこうしたい、と思ったら人目を気にするよりも、どうしたらそれを実現できるかに力を注ぎますし、必要な努力も惜しみません

 増田さんの新刊『揺れる移民大国フランス』(ポプラ社)には、東ドイツ出身の移民でありながら、外資系企業の管理職を務め、年収1000万円以上を手にしているモニカ・ピッシュ=ロスバーさん(取材当時43歳)という女性が登場する。経歴だけ聞くと、さぞかし仕事一筋だったのかと思いきや、21歳で現在の夫と同棲し(24歳で正式に結婚)、中高生の息子(13歳、16歳)を育てている。

 高校卒業資格検定試験であるバカロレアでは優秀な成績を修めたものの、大学には進学せず専門学校へ。その理由が「少しでも早く彼と一緒になりたかったから(!)」というから情熱的だ。

自分の思いに忠実に生きるモニカさん
自分の思いに忠実に生きるモニカさん

 「彼のことが好き、だから結婚したい。子どももほしい。とても正当で人間らしい選択ですよね。本来それで良いはずなのに、日本人女性が素直に生きられないのは“もう○○歳だから”と年齢を気にしすぎたり、自分や世間が決めたレールに縛られすぎたりしているからかもしれません」

制度のために子どもを生むわけじゃないわ! 彼が好きだからよ

 増田さんが取材したなかには、ずっとシングルマザーとして過ごしてきながらもアラフォーにして再婚・出産・会社経営をなしとげたベアトリス・ブドゥさん(53)という女性がいる。ベアトリスさんはセーヌ川のクルージングで現在の夫と恋に落ち、再婚を決意。夫の出資により会社経営に乗り出そうとしたところ、妊娠が分かる。39歳で出産し、40歳の誕生日に結婚式を挙げた。

 「私は思わず『高年齢出産を不安に思わなかったの?』と聞いてしまったのですが、ベアトリスさんは『彼に出会えただけで幸せなのに、赤ちゃんまで授かって最高にハッピーだったわ! もし赤ちゃんに何かあったとしても今は医療も発達しているし、心配ないと思ったの』と言い切っていました」

 フランス人女性が自由に生きられる背景には、PACS(民事連帯契約)という制度の後押しもあるが、それが全てではないと増田さんはいう。

 「PACSでは内縁関係にあるカップルも、法的に結婚した夫婦と同等の権利が認められています。実子と婚外子が区別されることなく、子ども手当も充実しています。でも、『制度が手厚いから子どもを生みやすいのね』と言ったら、当人であるフランス人女性たちには『制度のために子どもを生むわけじゃないわ! 彼が好きだからよ』『制度に関係なく、子どもを生む・生まないは個人の自由よ』と反論されました

 また、子育て支援制度は充実しているものの、日本と同じようにパリでは待機児童の問題もあるし、石畳でエレベーターの少ない街は子育てしやすいわけではないという。

 「フランスだから、パリだからといって、彼女たちはすごく理想的な生活をしているわけではないんです。でも、自分のしたいこと、望むことに忠実に生きているから幸福度が高いのだと思います