安原 意外なところに仕事のチャンスというのはあると。

井戸 こちらの人柄が分かっているから安心だったということと、一人で開業していて「気軽に相談に乗ってくれそう」と感じてもらえたことがよかったんだと思います。主婦の方の再就職や定年後の仕事探しなども、いきなり大企業や有名企業を目指すより、自分の身の回り、ご近所に目を向けてみたほうが案外いい求人があるかもしれません。社会保険労務士という仕事柄、小さな企業の経営者や個人事業主の方々と接することが多いですが、事務作業をテキパキこなしてくれる人のニーズは高いですよ。自分の強みは案外自分では自覚しにくいものなので、職場でよく褒められる点を書き出してみてはどうでしょう。定年退職後はその能力を生かして仕事にできないかと早いうちから考えてみるのもおすすめです。

安原 大江さんは、定年後に経済コラムニストとして起業されました。マスコミに特別な人脈があったわけではないそうですが、仕事のチャンスはどうやってつかんだのですか?

大江 僕の場合もやはり知り合いつながりです。「講師料は払えないけど、個人投資家向けのお金のセミナーの講師をやってもらえないかな」と頼まれたのが始まりです。無料奉仕でしたが、じっくり時間をかけてレジュメを作り、当日は一生懸命務めました。テーマは行動経済学です。実は現役時代の最後の10年間は仕事の傍ら、興味があった行動経済学の勉強をコツコツ続けていたのです。そのセミナーの内容がインターネット上で紹介されて、それを見た人から次のセミナーの依頼が来ました。そんな風にして、報酬のある仕事が徐々に増えていきました。

「老後について本当の意味で関心を寄せてみましょう」と大江さん
「老後について本当の意味で関心を寄せてみましょう」と大江さん

安原 日ごろのお付き合いや勉強、人間力が大事なのですね。

大江 僕は証券会社時代の後輩にいつも言っているんです。50歳近くなったら、もう会社の人間とばかり付き合うのはやめて、会社の外で友達と会ったり、自分の好きなことを追求したりしなさいと。もちろん会社からは報酬をいただいているわけですから、その分の仕事はきちんとこなさなければなりません。一方、会社の外での付き合いや行動は、すぐにはお金にはつながりません。しかし、いつかこれを引き出せるときが来るはずです。「人付き合いの貯金」とでもいいましょうか。