実は心理学的には、人は作業をストップさせられると、やり続けたくなるものなのです。この人間の性質は、先送りを防ぐのに使えます。その仕事(やるべきこと)が、終わるのに15時間かかるものなら、「15分間やり、15分たったら作業を必ずやめる」といいでしょう。150時間かかる仕事なら、「1時間やったら作業を必ずやめる」のがいいかもしれません。仕事によって、作業する時間・作業をやめる時間の長さは変わってきますが、やめる時間になったら作業を完全にストップして、他のことをする必要があります。そして、また仕事に戻りたいかどうか見るのです。すると、人は仕事に戻る傾向があることが研究で分かっています。

――「やらなければならない」ことではなく、「やりたい」ことなのに、先送りしてしまうこともあります。例えば友人と会う時とか。「近いうちに会おうよ」と口では言っておきながら、実際には先送りしてしまうことってありますよね。

 それについても、いい解決法があります。

 例えば私のクラスの学生で、「友達と会いたい、でも先送りしてしまってなかなかできない」というAさんがいるとします。Aさんは、友達と近いうちにお茶するか、飲みに行くかしようと思っている。私はAさんに「実際に約束できますか?」と聞きます。Aさんが「イエス」と言ったら、「では、いつですか?」と聞く。Aさんは「たぶん今週末」と答えます。でももしそれを先送りしたら、その後1カ月、週末に友達と会うことができない、と決めるのです。つまり、今週末に会うか、一カ月会わないか選ぶように、自分を仕向けるのです。

 「A.今日やるか B.明日(以降)やるか」。こういった2択の状況では必ず、A=「今日やる」方を選択することが重要です。なぜなら、今日やることを選択したら、明日もそれをやるチャンスが増えるからです。

 逆に、B=「明日(以降)やる」方を選んだら、それを実際に行動に移す可能性はゼロに等しいのです。人はよく「今日はやることが多いし、疲れているからできない。明日やろう」と考えますよね。でも、「明日やる」ことは現実には、ほとんど起きません。

 こうした先送りを防ぐためには、「もし今日できなかったら、3日間はやらないようにする」と、何らかのルールを決めることです。先にお話しした私のクラスのAさんのケースに置き換えると「今週末できなかったら、1カ月しない」ようにするわけです。これは、「reducing variability(変動性・曖昧さの減少)」と呼ばれています。

 この手法を使えば、多くの人が口にする「友達と過ごす時間は今週はないけど、来週はきっと時間があるわ」といった先送りを、防ぐことができます。この手法を使い始めると、「今日・今週末やると決めたこと」は、「明日・来週末にもやらなければならない」と、考えるようになる。つまり、「先送りするための言い訳など言わず、さっさと行動する」という姿勢を習慣化すると、これまで先送りしていた様々なことを、実際に行動に移せるようになります。これが、習慣化につながるのです。

ケリー・マクゴニガル
Kelly McGonigal, Ph.D.

米スタンフォード大学の心理学者。専門は健康心理学。ボストン大学で心理学とマスコミュニケーションを学び、スタンフォード大学で博士号(心理学)を取得。心理学、神経科学、医学の最新研究を応用し、個人の健康や幸福、成功、人間関係の改善に役立つ実践的な方法を提供する講義は人気を博し、スタンフォード大学で最も優秀な教職員に送られる「ウォルター・J・ゴアズ賞」をはじめ数々の賞を受賞。「フォーブス」の「人びとを最もインスパイアする女性20人」に選ばれる。心身相関を重視する立場から、グループフィットネスやヨガの指導も行っている。TEDプレゼンテーション「ストレスと友達になる方法」は1100万超えの再生回数を記録し、“プレゼンの名手”としても知られる。大学で講義するかたわら講演や執筆活動も精力的に行い、2012年に日本で発行された著書『スタンフォードの自分を変える教室』が60万部を超すベストセラーとなり、ビジネス書の年間ベストセラー1位(2013年、日販・トーハン調べ)に選ばれた。

インタビュー/日経ビジネスアソシエ編集部
(2016年11月18日にサイト「日経ビジネスオンライン 」に掲載された記事を転載しています)

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著者 : ケリー・マクゴニガル
監訳 : 泉恵理子
出版 : 日経BP社
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