2017年も、政治に芸能界に大きな出来事が次々と起きました。その中から、ネットニュース編集者・中川淳一郎さんが2017年、最も注目したトピックスについて語っていただきます。前編である今回は、2017年に注目を浴びた「女たち」について紹介します。

中川淳一郎

1973年東京都生まれ。97年博報堂入社、CC局(現PR戦略局)に配属。2001年、もはやサラリーマンは無理だと悟り無職になる。そこからさまざまな人との縁からフリーのライター・編集者に。現在は、「NEWSポストセブン」編集など、ネット上のコンテンツの編集業務を主な仕事とする。著書に「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書)、「電通と博報堂は何をしているのか」(星海社新書)など多数。

 2017年は、女の人たちが、とにかく爆発しちゃった年だった。

 一番、オレが好きだったのは、女優の松居一代だ。「勝利宣言」の会見をし、調停離婚を成立させ、年末までいろいろ騒がせてくれた。夫で俳優の船越英一郎との離婚危機騒動が注目されてきたわけだけど、夫のことを「バイアグラ100ml男」(mgの間違いだよね)と呼び、動画サービスYouTubeに次々と船越が浮気をしたとして、それを糾弾する動画をアップした。

 オレが松居一代を好きなのは、ネットを始めたばかりで、一部の支持してくれる人にすがっている感じが、いじましかったからだ。彼女はブログの読者登録をした人を「家族」と呼ぶ。夫と離婚調停が進行し、一人息子も彼女の行動に呆れるなか、頼れるのはブログの読者と、居候先のおばあさんだけだった。でも、そのおばあさんは遠い関係の人で、彼女の周りからそこまで人がいなくなっちゃったのかと思った。すごいお金持ちだけど、彼女の近くに人は残らなかった。船越英一郎にしてみれば迷惑千万だろうけど、松居一代に誰かがもう少し優しくしてあげれば、あんなに暴走しなかったと思う。近しい人が周りにいないということの悲しさ、人間関係の重要性を教えてくれた一件だった。

 それは、シンガー・ソングライターの泰葉も一緒だ。9月にはイラン人との婚約を発表したけど、実家の海老名家とは絶縁状態。結局彼を実家に紹介することさえかなわなかった。しかも、その後も別れた夫の落語家・春風亭小朝のことをブログに書いている。漫才コンテスト「M-1グランプリ」の今年の審査員に小朝が選ばれたことが報道されると、初めて小朝がこのコンテストの審査員を務めたときの、自分と彼の思い出をつづっていた。「思い出します はじめての審査員の日」って。怖い。

 ネットのニュースは、常軌を逸した行動を取る人を過度に取り上げる傾向がある。YouTubeで松居一代がこう言った――。それだけで記事になる企画がまかり通っている。奇行に走れば走るほど、彼女は「あ、またYahoo!ニュースに出たわ」と喜んでいたと思う。ネットに慣れていないから、微妙に彼女をおとしめる文脈で取り上げているというところまで見抜けなかった。松居一代とか泰葉の件は、ネットリテラシーがあまりないおばさんたちが、ネットに慣れた人たちのオモチャにされてしまったケースだ。彼女たちがブログを書いているアメーバブログでは、「不適切なコメント」をチェックして削除する。だから、頑張ってくださいというようなコメントばかりあって、実態が見えなくなる。

 秋が近づくと、松居一代も穏やかになっていった。それは多分、離婚調停に影響するといったことを助言する人が出てきたんだと思う。