「トランプ支持ならFB上での結びつきをやめる!」
中学校の教師を長年勤めてきたペギーと、知的障害者の職業支援施設で働くジューリー。
彼女たちは共に50代で、かれこれ20年以上仲良く一緒に住んでいる同性カップルなのだが、そのジューリーが、「ねえ、どっちに投票すべきかな?」と私に聞くのだ。
「え? どうして?」
「だって、トランプにもヒラリーにもどっちにも全く投票したくないんだもの。全米回って取材しているあなたなら、どっちがいいか判断できるでしょ。どっちに投票すべきかこの際はっきり言ってよ」
驚いた。
彼女の職業選択やこれまでの「鉄板リベラル」な言動から、てっきりヒラリーに投票するだろうと思い込んでいたのだが、そうではない?!
「トランプは人間として我慢できないし、女性やマイノリティの人権を蹂躙しそうですごく怖い。でも、ヒラリーはウオール街の金融業界との結びつきが強すぎて金まみれという印象。庶民のための政治なんてできるのかな?」とジューリー。
寡黙なペギーは何も言わなかった。
ふたりともオバマには2度投票してきただけに、今度もヒラリーに投票するものだろうと勝手に決めつけていた。
彼女たちの葛藤に気づかなかった自分の浅はかさにはっとした。
それからの数日間、周囲のミシガン州民と話すとこんな発言も耳にした。
「トランプに投票するような人間とは、フェイスブック上でフレンドの結びつきを切るからね、私」
そう公言する民主党支持者のキャロル。
例えば、このキャロルはジューリーの友人なのだが、もしもジューリーがトランプ側に転んだらどうするだろう。
まさかと思うが、本当にフェイスブック上のフレンドの結びつきを切るかも?!
そうだとしたら、ジューリーはトランプに投票した場合、キャロルには、いや、誰にもそれを明かさないのではないか。
雪深い北ミシガンでは、政治信条を理由に誰かと仲違いしていたら、極端な話、生死にかかわるからだ。
マイナス20度の冬に、積雪3メートルの雪に車ごと埋まってしまった場合、通りかかった人間に掘り起こしてもらわなければ、マジで凍死してしまう。
アパートの隣のユニットに誰が住んでいるか知らないという大都会のようなドライな人間関係では、北ミシガンの田舎では決して生きていけないのだ。
近所の「ブロックごとのパーティー」には100人以上の住人が集まり、誰もが近所の人の家を知っているだけでなく、彼らが運転する車の車種、色を全て知っている。
「キミ、昨日裁判所に行ってた?」
「どうしてわかったの?」
「だってキミのブルーのフォード車が裁判所の前に駐まってたから」
と、プライバシーも何もあったもんじゃないのが、スモールタウンなのだ。
明日12月1日公開の記事に続きます。
文/長野美穂 写真/長野美穂 、PIXTA
東京の出版社で雑誌編集記者として約9年間働いた後、渡米。ミシガン州の地元新聞社でインターン記者として働き、中絶問題の記事でミシガン・プレス・アソシエーションのフィーチャー記事賞を受賞。その後独立し、ネイティブ・アメリカンの取材などに没頭。ボストン大学を経て、イリノイ州のノースウェスタン大大学院でジャーナリズムを専攻。ミシガンでカヤック、キャンプ、クロスカントリー・スキー三昧するのが一番の楽しみ。現在は、カリフォルニア州ロサンゼルスの新聞社で記者を経て、フリーランスジャーナリストとして活動中