亡くなる直前まで過労であることを自覚できない
「過労死」は長時間労働に肉体が耐え切れずに、脳や心臓に負担がかかることで起こる「突然死」です。国内外を含め多くの研究で長時間労働および深夜勤務と、脳血管疾患もしくは心臓疾患とは強く関連していることが認められていて、特に睡眠時間が6時間未満になるとリスクが高まることが分かっています。
「労働時間、勤務日の睡眠時間」と心筋梗塞との関係を調べた調査では、「週労働60時間未満、睡眠6時間以上」群に比べ、「週労働60時間以上、睡眠6時間未満」群は4.8倍も高まります(※)。つまり、自分のやる気とかやりがいとかに関係なく、体は壊れる、という事実を真摯に受け入れないと、誰もが過労死するリスクを抱えているのです。
ところが、過労死する人の多くが亡くなる直前まで「自分が死ぬほど疲れている」ことを自覚できず、「肉体の悲鳴」に気付くことができません。
人の前頭葉には「疲れの見張り番」のような機能があり、アラームが鳴ると「疲れてますよ。休んでください。寝てください」と指示が出るようにプログラムされているのですが、アラームを無視し「まだ寝ちゃダメ。仕事が終わらない。もっと頑張らなきゃ」と働き続けると、見張り番自体が「疲弊」し機能しなくなっていくのです。
もし、あなたが「忙しいのに慣れた」とか、「睡眠不足でも大丈夫」という状態になっていたとしたら、それは「見張り番が壊れてしまった」というシグナルであり、極めて危険です。どんなに「私は体力あるんです!」とか、「確かにしんどいけど、仕事にものすごい充実感を感じてます!」と豪語したところで、内臓は悲鳴を上げている。
積極的に休み、肉体を休ませてあげないことには、いつ、なんどき自分の大切な人を悲しませる事態に追い込まれてもおかしくありません。
精神的に追い込まれた末の過労自殺
一方、「過労自殺」とは、長時間労働の影響以上に目標の達成ができないなど精神的なストレスの比重が高く、仕事のプレッシャー、時間的切迫、パワハラといった職場でのストレスが原因となって自殺に至ることで、多くの場合、うつ病などの精神障害に陥った末の自殺です。
つまり、「過労自殺」は、単に「労働時間を短くすればいい」というものではなく、本人を追い詰める「仕事上のストレス」も同じように考慮する必要があります。
実際、長時間労働と精神障害との直接的な関係は「ない」とする研究結果も少なくありません。ただし、「オーバーワーク」、すなわち「自分の能力的、精神的許容量を超えた業務がある」という自覚との関係性は強く、
「長時間労働 → オーバーワーク → 精神疾患 → 過労自殺」
といった具合に、長時間労働で「心がむしばまれた」末の悲しい選択なのです。