屋根なしの球場 でもそれこそ「野球らしい体験」

 1988年の東京ドーム開場を皮切りに、90年代において各地にドーム球場が誕生します。

 1993年開場の福岡ドーム、1997年開場のナゴヤドームと大阪ドーム、1999年には西武球場に屋根がかかりドーム化され、2001年には札幌ドームが開場します。野球だけでなく、雨天時のイベントやコンサート開催にも有利なドーム球場は、最先端のスポーツスタジアムでした。

 もし、そこで広島に余力があったなら。

 すでに老朽化が激しいスタジアムを建て替え、同時期に広島ドームを建てていたはず。実際にそうした計画も持ち上がっていたと言います。

 しかし、新・広島市民球場の計画が本格的に動き出したのは2000年代に入ってのこと。この時代のズレがドーム構想とはまったく異なる、総天然芝のオープン球場へと舵を切らせました。

 太陽の下、緑の芝生の上で生まれる、野球らしい体験。

 全天候型で快適なドーム球場とどちらが上かを決めるのは難しいですが、「ヨソとまったく異なる」体験ができる最新の施設を、一周遅れたことで広島は手にしたのです。

 近年では、楽天イーグルスや横浜DeNAベイスターズも同じような構想でスタジアム作りに励んでいますが、何と言っても広島は新球場です。「外周をグルリとまわれるコンコース」「ゆったりとした座席間隔」「寝転がって観戦できるエリアなど特徴ある座席作り」「新幹線の線路と隣接する面白い見た目」「左右非対称の個性的な形状」といった、ほかの球場では持ちえなかった独自の要素を設計時に盛り込むことができました。

 それはドーム球場時代を10年見守ったうえでゆっくり動き出したからこそ、成し得た構想だったと言えるでしょう。