30年前のセクハラ裁判からの変遷

カワイ 「セクハラ」って言葉は、働く女性が増えてから広く使われるようになりました。日本で「セクハラ」が市民権を得たのは約30年前です。

ニケ へ~、そんな前なのにセクハラはち~っとも減っていない。

カワイ 新しい言葉は、「仕方がない」と諦めた人、「なにごともない」と見過ごされて涙していた人を救うために生まれます。30年前に一人の女性が立ち上がるまでは、たくさんの女性たちが誰にも言えず、我慢していました。

ニケ 30年前に何があったんですか?

カワイ セクハラ裁判です。1989年に福岡の出版社に勤めていた当時32歳の女性が、支援者と共に裁判を起こした。20代後半に出版社に就職した彼女は上司から「夜遊びがお盛んだからな」とか、「結婚もせず男遊びか」とか、心ない言葉を何度も言われていました。ものすごく嫌だったけど、当時は女性が出版社に就職するのは厳しい時代だった。だから我慢していたのね。

 でも、どんどんと上司の性的いやがらせはエスカレートし、「男関係にだらしない」とか、「誰それと不倫している」とか、根も葉もない噂まで流した。我慢が限界に達し、助けを求めるつもりで上司の上司に相談。ところが笑い飛ばされ、挙げ句の果てに解雇されてしまったの。

ニケ な、なんで解雇されちゃうんですか? セクハラ上司が解雇されるんなら分かるけど、なんで? ひどい……。

カワイ 「男性上司を悪者にした」という偉い人たちの判断です。上司の言動を訴えた女性に「オトナの女性であれば笑い飛ばせるはずだ。上司に非があるような物言いはおかしい」って逆ギレされた。当時は、「女は仕事なんかしてないで、さっさと結婚しろ」という空気が職場にあったから、男性優位の対応を取られてしまったのね。

ニケ その空気、今もありますよ! ニケ、「女はいざとなったら結婚して辞めればいいから、羨ましい」って言い放った同期の男子とケンカしたことありますぅ。

カワイ 結婚したくらいじゃ辞めないわよね(苦笑)。

ニケ そーですよ! っていうか、結婚するほうが難しい……。

カワイ もともとのセクハラは「権力ある立場の人が『ノー』と言えない立場の人に対して行う行為」に使われた言葉なの。つまり、先の福岡の女性のケースは明かにセクハラ。でも、ニケさんが言われたことはセクハラとは言い切れない。ところが時代も代わり、人権の重要性が叫ばれるようになって、セクハラの解釈も広がってきました。

 だって、私が就職する頃は、「男性社員の社内結婚の相手」として女性を採用している大企業もあったのよね。

ニケ えええ~! 信じられない! そんな時代に「それはおかしい!」って立ち上がるなんて、メチャクチャ勇気いるじゃないですか!

カワイ その通りです。いつも理不尽に風穴をあけるのは「勇気を出して、立ち上がった人」。彼女は当時の当たり前に人生まで狂わされた。だから、それはおかしいって立ち上がった。そしたら、「私も同じような経験をした」って何人もの女性が一緒に立ち上がりました。

ニケ 今、話題になってるハリウッドの「#metoo」(※)と一緒ですね。

※編集部注:「私も」ハッシュタグ。セクハラ被害をSNS上で訴える際に使われ、ハリウッドで活動していたプロデューサーの性的暴行疑惑が持ち上がったことをきっかけに、多くのセレブがこのハッシュタグを使って自分が受けた被害を訴えている

カワイ 当時、米国では既に「セクハラ」が問題になっていたので、海外経験のある人やフェミニストの方たちも支援者となり、多くの女性たちが一緒に戦ったことで、裁判では「個人の問題」ではなく「女性の問題」であることが認められて、勝利しました。

ニケ それから30年もたっているのに、いまだにセクハラに涙している女性がいるってこと、男の人たちは分かってるのかなぁ~。

カワイ 「なぜ、女性が不快に思うのか」という基本的なことが理解されていないから、いっこうになくならないのよ。おまけに男性の中には、「セクハラになるのは相手が若い女性だけだ」って思っているおバカさんもいますからね。