「私は管理職肌ではないのに昇進してしまった、管理職のプレッシャーに耐えられない、昇進前に戻りたい」――女性活躍推進の余波で、自分の昇進に悩みを抱える人も増えています。健康社会学者の河合薫さんはどうお考えでしょうか。リアル人生相談の連載第9回です。
あるあるカイシャ事件簿Vol.9
「私は管理職肌ではない」
今までであれば、同僚と一緒に相談しながら進められましたが、今は一人で決断を迫られる立場になり、つらいです。こじんまりとしたチームですが、中心に立ってメンバーをまとめる自信が持てません。
私は、職歴は長いですが、正直、派手な実績はありませんし、経験も豊富でもありません。周囲にはもっと優秀な先輩社員がいます。なぜ、私が昇進してしまったのか、考えれば考えるほど気分が落ち込みます。もしかすると、女性の中間管理職を増やしたい会社に、利用されているのかも、と勘ぐってしまいます。
昇進前に戻りたいと思う毎日なのですが、このつらい気持ちを解決するには、私はどうすればよいのでしょうか。
ニケ 羨ましすぎる~! 昇進、ってことはお給料だって上がるし、なぁ~んも悩むことないのに~。私だったら、ホイホイ喜びますよ! モスグリーンの"MA-1"買って……、アレと、コレと……。
カワイ 相変わらずノー天気ね。ニケさんみたいなタイプは、昇進した途端、「薫さん、私にはムリです~」って泣きついて来るのよね。それに管理職になると残業代がつかなくなるから、給料が増えるとは限りませんよ。
管理職って、部下の将来に影響するし。部下が生きるも死ぬも、上司次第ってこともありますから。責任重大!
ニケ ゲッ……。そ、そんな責任持ちたくないです! 責任のない仕事で、お給料高いのでお願いします!
カワイ そんなモンございません。あればとっくに私も転職してるわ。そもそもこの世の中に責任のない仕事なんて、ありませんよ。どんな些細な仕事にも、責任はあります。それこそお金もらってるのよ。遊んでるわけじゃないんですからね。
ニケ は、はい……。その通りです。ニケ、反省~!
カワイ 軽ッ! それよりニケさんの会社では、「とにかく女性管理職増やせ!」ってトップの鶴の一声で、女性社員が一斉に管理職にさせられた、なんてことは起きてない?
ニケ ウチはないです。むしろそれくらいやって欲しいですよ。女性管理職、めちゃ少ないですから。でも、友人の会社では年末の人事で、女性社員がゴロゴロ管理職に昇進したって言ってました。
カワイ "頭数協奏曲"が吹いたのね。政府が「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」って数値目標を設定して、2014年に女性活用企業にさまざまなインセンティブを与える施策を出してから、"頭数"を増やすことに躍起になった企業が続出したの。40歳以上の女性は全員部長にしたり、一般職でも何でもいいから課長に昇進させたり。
私のフィールドインタビューに協力してくれた女性の中にも、何人もそういう方たちがいました。
彼女たちはみんな困惑していた。相談者の女性と同じです。「昨日までの同僚」が「部下」になったり、「昨日まで一般職」だったのに「総合職」になったりしたら、誰だって戸惑いますよね。
ニケ そんなのイヤだ~。今のままがいい~。
カワイ 確かに、まるで“ファッション”のように昇格を扱うのは、まったく賛成できません。でも、いかなるカタチであれ、女性たちに追い風が吹くことは無風よりもいいかなぁって思うの。だから仮に、「女性の中間管理職を増やしたい会社に利用された」としても、それはそれとして受け止めてやり過ごせばいい。