2月某日、絵本作家が作った「あたし おかあさんだから」の歌詞を巡り、SNSを中心に賛否両論の嵐が巻き起こりました。献身的な母親像の押し付けやワンオペ育児の賛美として受け止めた受け手側、子育て応援のはずだったとする絵本作家側――発信の難しさが改めて露呈しました。健康社会学者の河合薫さんとアラサー独身OL代表のニケさんが、今回の炎上騒動について考えます。

【Q】「おかあさんだから」我慢しなきゃいけないの?

今週の気になる話題Vol.4「あたしおかあさんだから……歌詞が怖い」
 現在、私は金融関係で働いています。仕事にはやりがいを感じていますし、できればこの先も仕事は続けていきたいと思っています。結婚していますので、子どものいる生活がいつか来るかもしれません。
 でも、やはりそれは難しいのかなと思う出来事がありました。先日、「あたし おかあさんだから」が話題になり、歌詞を見たら怖くなってしまったのです。(29歳、金融、営業、既婚)
いつか子育てする日が私にも来るかもしれない。でも、苦労ばかりの歌詞を見たら怖くなってしまいました…… (C) PIXTA
いつか子育てする日が私にも来るかもしれない。でも、苦労ばかりの歌詞を見たら怖くなってしまいました…… (C) PIXTA

【A】言葉尻で判断せず、その先を見よう

ニケ ニケも……怖かったです……。だって、今の生活を180度変えて、「子どものため」だけに生きなきゃお母さんになれないんですよね? 子どもができたら完璧なお母さんにならないとダメって、あの歌を突きつけられた。ニケにはそんな自信ないです……。なんか超ブルー。結婚して、子どもも欲しいのに、ニケ、お母さんにはなれない、かも……(涙)。

カワイ 「おかあさんだから眠いまま朝5時に起きるの」ってやつですね。

ニケ はい、「おかあさんといっしょ」の歌のお兄さんだった人が歌っていましたね。

 子育てを最優先にするお母さんの姿が目に浮かぶような歌詞で、「献身的な母親像を呪いのように押し付けている」って、炎上しちゃったんですよね。あと……母親だけが一人きりで育児を頑張っているようにも見える歌詞で、「ワンオペ育児を賛美している」って怒ってる人もいました。

カワイ でも、その一方で、お母さんたちの現状を表しているという肯定的な意見もありましたよね。

ニケ そうなんですか? ってことは、やっぱり、自分のやりたいことを我慢してでも、立派なお母さんにならないとダメってことですよね?

カワイ 育児はね、いろいろなことが社会問題になっていて、ホントに大変で大変で。だから、賛否両論が入り乱れたのよね。私の意見を言ってもいいかしら?

ニケ はい、薫さんの意見、聞きたいです。

カワイ まず、大前提として……。一気に炎上し、謝罪、そしてみんな忘れるという、一連の流れが、今回の件だけではなく何度も繰り返されていますよね。私は、こういった瞬間湯沸かし器のような今の日本社会は、正直怖いと思っています。

 しかも、今、こういうふうに私が「大前提として……」と前置きしながら一般的なことを意見しているのに、反射的に、「河合薫はワンオペ育児を賞賛してる」とか、「河合薫は献身的なお母さんを賞賛してる」とか、「河合薫は子育ての経験もないのに偉そうなこと言ってる」とか、言葉尻を捉えて攻撃してくる人たちがいます。

 ちょっとでも攻撃する対象を見つけると、ここぞとばかりに石を投げる。……人を批判し、謝罪させて、それでジ・エンド。いろんな人がいるわけだから、いろんな意見があって当たり前でしょ。顔だって、身長だって、価値観だって異なる。

ニケ 確かに……。でも、やっぱりニケは、悲しいって、反応しちゃいました。

カワイ 「そっか、そういう考え方もあるのか。でも、自分はそうなりたくないな」って思えばいい話じゃない。場外から石を投げて、謝らせて、その先に何があるのか? 本質的な問題は何も解決していないのに……。ものすごく不健康ですよね。

ニケ ひどいなぁって思うことの中に潜む、真実を考えるってことですか?

カワイ 難しいことかもしれないけど、そういう努力も時には必要だと思います。

ニケ うん。あ、薫さんは、「大前提として」って言ってるんですもんね。じゃあ、今回の歌詞については、薫さんはどう思ったんですか?