介護する立場になって、初めて雨の冷たさが分かる

カワイ 介護の最大の問題は、自分がその立場にならないと「雨の冷たさ」が分からないってことなの。

ニケ 確かにこれだけ毎日のように、「介護」って文字をメディアで見るのに、すご~く正直なことを言うと……、自分の親も介護とか必要になるのかもしれないけどリアリティーがないかもしれません。

カワイ 私の父のことはこれまでにも何度か話してきましたよね。

ニケ はい、バリバリ元気で、毎朝腹筋50回、背筋50回の筋トレやって、毎日ゴルフやっていたのに、がんが見つかってしまったんですよね。

カワイ ホントに突然でした。入院して1週間で、10歳くらい年を取ってしまったし、お風呂に入れないので、背中を拭いてあげようとしたら、ビックリするくらい小さい背中で。私の中の父とは全く違う現実世界の父にショックを受けました。

 しかも、ある日突然やって来て、大きな変化から、次から次へと、「これでもか!」って変化が続いていくの。

ニケ どんどんおじいちゃんになっちゃうってことですか?

カワイ おじいちゃんになってしまうというより……「喪失」の連続かな。

 変化が起きるたびに、それまでは当たり前にできていたことができなくなったり、当たり前にあったことがなくなってしまうの。一番悲しかったのは、ポジティブな感情の塊だった父から、どんどんとポジティブな感情が消えていったことです。

 降り注ぐ雨は冷たくなるばかりでした。

 でも、そういった状況になっても、家族は少しでも「笑いがある日常」を取り戻そうって、アレコレやるのよ。すると「よかった、もう大丈夫!」と安堵する日と、「ああ、どうしたらいいんだろう」と途方に暮れる日が入り乱れ、四六時中振り回され、心と頭と体がバラバラになって、出口の見えない孤独な回廊に足がすくんで、何が正解なのか分からなくなってしまうのです。

 小室さんの会見の後、「介護は大変だからもっと気楽に相談できればいい」という意見がありました。確かにその通りなんだけど、傘を借りるのって案外難しいのよね。

ニケ 相談する余裕もないくらい大変ってことですか?

カワイ なんというか……「遠い」っていうのかな。

ニケ 遠い、ですか?

カワイ 私は父に変化があった直後に、友人とランチをする約束があってね。でも、そんな気分になれなういでしょ。だからお断りの連絡をしたの。そしたら友人が、「何も力になれないかもしれないけど、話くらいは聞けるよ。話すと少し楽になるかもしれないからお茶だけでもしようよ」って言ってくれた。

 それで彼女に会った。でも、私は救われるどころか傷ついた。それで、二度と人には言わないようにしようと思いました。

ニケ えっ! ど、どんなひどいこと言われちゃったんですか?

カワイ ううん、違うの。彼女に悪気はないの。彼女は優しい気持ちで言ってくれたことなんだけど、遠過ぎて……。彼女が善意で投げかけた言葉と、私の心が遠過ぎて。彼女の善意を受け止めることができなかった。

ニケ 難しいですね……。