糸なつみ 「おとなとこども、あなたとわたし。」

女同士は楽しいけれど難しい

糸なつみ「おとなとこども、あなたとわたし。」KADOKAWA刊。全3巻、1、2巻は各650円。3巻は680円
糸なつみ「おとなとこども、あなたとわたし。」KADOKAWA刊。全3巻、1、2巻は各650円。3巻は680円

 コスメの情報を交換したり、おいしいお店でご飯を食べて、時にはすっぴんでお泊まり&家飲み。こう聞いて、学生時代からの女友達や同僚の顔を思い浮かべた人もいるでしょう。でも、お互い楽しく過ごしながらも相手の一言が気にかかったり、嫉妬したりされたり、苦い思いを経験した人もいるのでは? ましてやその女友達がふた回り以上も年上だったら……。

 2冊目に紹介するのは、糸なつみさんのマンガ「おとなとこども、あなたとわたし。」。オトナ女子向けのコミック誌「COMIC it」に連載していた、「年の差」をテーマにしたオムニバス3作品を収録しています。中でも読者にオススメなのが、年の差27歳の女同士の友情を描いた「ランナーズ」です。出会い、3年後、さらに5年後と3話のエピソードで構成されています。

 新入社員のエリは、「美魔女」と呼ばれる27歳年上の同僚・奈々子とふとしたきっかけで話をするように。クールなエリと、いつもはしゃいでいて楽しそうな奈々子。自分と同僚をくっつけようとする奈々子に「その前に自分のこと頑張ったらいいじゃないですか」「人のこと構わないで自分のことだけ構ってればいいじゃないですか」とエリは食ってかかります。それに対し、なぜかおせっかいを焼きたくなると答える奈々子。さらに、人生をお互いの共通の趣味であるランニングに例え、「長距離走は得意だから」「私の人生だもん、楽しくいたいの」とキッパリと話す奈々子に、エリは好感を覚えます。

 時は流れ、3年後。エリと奈々子は家に泊まりに行くほどの仲良しに。水と油の性格ながら、お互いの良さを認め合う2人ですが、久しぶりに訪れた恋のチャンスや同僚や見知らぬ人のさりげない一言に、少しずつダメージを受けていく奈々子。「“オバさん”“母親世代”」「聴こえてこなかった声が、見えなかった顔が、だんだん、だんだんハッキリしてくるみたい」。エリといることで自分がみじめになると気付いた奈々子は、決定的な一言をエリにぶつけます。

 最後のエピソードには出会いから8年がたち、30歳になったエリと57歳になった奈々子が登場します。今は全く違う生活を送っているエリと奈々子がこの先どうなるのでしょうか。一見すると奈々子が振り回しているように見えますが、かたくななエリが成長していく物語でもあります。読み終えた後は、しばらく疎遠になっていた女友達に連絡を取りたくなるかも。

 女同士の友情の難しさに共感したり、胸が苦しくなったら、ぜひ他のエピソードを読んでみて。「箱の中」の主人公はお隣りに住む18歳の高校生に恋をした11歳の少女。二人の5年後、11年後は? 75歳の老人と30歳の若者の交流を描いた「一枚の絵」にも注目です。

文/樋口可奈子 書籍写真/スタジオキャスパー イメージ写真/PIXTA


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