安らぎホルモンのオキシトシンを出すには?

 こうしたオキシトシンの働きは、人間同士の触れ合いだけで見られるものではない。「人と動物が触れ合うことでもオキシトシンは増える」と話すのは、東京農業大学農学部の太田光明教授。最新の研究では、人とイヌが見つめ合うと、人とイヌ双方にオキシトシンが増えることも分かった。「オキシトシンがたくさん出るほど愛着行動が増す。するとさらにオキシトシンが出る。ペットと飼い主の関係が良好であればあるほどオキシトシンがたくさん出るともいえる」(太田教授)。ペットを飼えなくても、「動物と触れ合える場所に行き、見る、触る、世話をするなどの行動でオキシトシンは出る」と太田教授。

1. 動物との触れ合いで出る

 「動物との触れ合いで人が癒やされるのは、副交感神経が活性化して、オキシトシンなどのホルモンが分泌されるから」(太田教授)。オキシトシンが母子やカップル間の愛着行動を促すのと同様、動物と人との関係性が親密であるほど効果が期待できる。

2. ペットと見つめ合うと出る

 動物界では相手を直視することは威嚇のサインだが、人間とイヌの場合、信頼関係があれば絆が形成される。実際に麻布大学の研究で、人とイヌが見つめ合うことによってお互いのオキシトシン分泌が高まることが分かった。

見つめ合うと飼い主とペット双方のオキシトシンがアップ
見つめ合うと飼い主とペット双方のオキシトシンがアップ
一般家庭の飼い主とペットのイヌ30組を対象に実施。30分間自由に過ごし、試験前後の尿中のオキシトシン量を比較した。その結果、イヌと飼い主がよく見つめ合った群では、両者ともに交流前に比べオキシトシン濃度の上昇が認められた。あまり見つめ合わない群は変化しなかった

 より多くのオキシトシンが出るのはペットのお世話。「ホルモンは用量依存性。オキシトシンが出るほど幸せな気分になる。見るだけより、触るほうが出る。散歩をしたり、餌をやるなど世話をするとさらに出る」(太田教授)。

3. 人と触れ合うと出る

 性行動や親子・カップル間での触れ合いなど、信頼できる相手とのスキンシップで互いに増える。「女性と男性では反応に違いがあると考えられている」(尾仲教授)。

4. 親しい人と話すことで出る

 家族など親しい相手と話をするだけで、肌の接触がなくても分泌が促される。母と娘で電話越しに話をするとオキシトシン量が上がったというデータも。

5. 食事をすると出る

 動物試験で、摂食でオキシトシンが分泌されることが報告されている。「家族や友人など気の許せる相手と一緒に食べれば絆を強くする効果が期待できるのでは」(尾仲教授)。

6. マッサージで出る

 皮膚の心地よい接触もオキシトシンをアップさせる。セラピストに背中をマッサージしてもらうと血中オキシトシン濃度が上がったという報告もある。

この人たちに聞きました
尾仲達史教授
自治医科大学 医学部生理学講座
東京大学医学部卒業。英国・ケンブリッジAFRC研究所British Council Fellow。自治医科大学医学部生理学講座で神経脳生理学部門の教授を務める。研究内容はストレス・摂食・情動・社会行動の神経機構。

太田光明教授
東京農業大学 農学部バイオセラピー学科
東京大学畜産獣医学科卒業。獣医師。東京大学、大阪府立大学、麻布大学を経て、現在は東京農業大学農学部バイオセラピー学科で教授を務める。専門は、獣医生理学、ヒトと動物の関係学。

 次回は、動物に触れあうことができる都心の癒やしスポット、動物カフェをご紹介します。

取材・文/長野洋子(編集部)写真/小野さやか、鈴木愛子

日経ヘルス2015年12月号掲載記事を転載
この記事は雑誌記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります