【質問9】仕事やプライベートで「しない」と決めていることを教えてください

【回答】「しなくてもいいことは、しない」と心に決めています

 私は何でも「自分でやりたい」「自分でやったほうが早い」と考えがちなのですが、その分自分が決めた「やるべきこと」に縛られて、首が回らなくなってしまうこともあります。完璧主義が空回りした結果、何も完成させられないというのは不毛ですよね。「ちゃんとしよう」とすると、やるべきことが増えますが、1日は24時間しかありませんし。「餅は餅屋」という言葉もあるので、人に頼ったり、任せたりすることのほうを意識しています。

「しなくてもいいことは、しない」と自分に言い聞かせているそう
「しなくてもいいことは、しない」と自分に言い聞かせているそう

 留学先でブックデザインの勉強をしたので、「『天国飯と地獄耳』の装丁も自分でやればよかったのに」と言われますし、やってみたい気持ちもありました。しかし、東京とニューヨークで物理的な距離がある中、装丁のためのやり取りをするのは「こだわり」ではなく「ワガママ」になってしまいます。今回は幸運にも大好きな名久井直子さんに装丁をお願いできることになったので、「私の本に一番似合う『服』を着せてやってください」と、完全にお任せにしました。自分では思い浮かばないような素晴らしい装丁になりましたし、昔と違って「委ねる」ことができるようになったなと思います。

【質問10】新刊のコンセプトは「おいしいごはんを食べながら、隣席の会話を盗み聞きする」です。<東京編>と<NY編>がありますが、女性の会話や振る舞いに共通点や違いはありますか?

【回答】女子会の雰囲気がよく似ています

 新刊に書ききれなかったエピソードですが、とあるスパのウオーターラウンジで、女だらけの忘年会を目撃したことがあります。同じ職場の女性限定で集まったのでしょう。上司も部下もみんなぬれた髪にバスローブ姿でシャンパンをパカパカあけて、水着姿でサウナを出入りしたり、別室でマッサージを受けたりしながらおしゃべりを楽しんでいました。ゴージャスな金髪に惑わされて、一瞬「『Sex And The City』みたい!」と思ったのですが、冷静に考えると、日本の女子がスーパー銭湯のお座敷コーナーでしゃべっているのに近い光景なんですよね(笑)。違うのは、人種だけ。

 一方で、日本人の会話に聞き耳を立てると、老若男女問わず、ネガティブな言葉の応酬が多いよな、とは思います。これは、新刊の「本音も建前も、パブリック」という章に書も書いた話です。東京で聞き耳を立てると「みんな、食べながら心のデトックスしているんだなぁ」と思います。ただそれは、外国語を聞くよりも細かなニュアンスが伝わりやすく、聞いている私が過敏に反応してしまうだけなのかもしれません。ニューヨークの女性も、よく愚痴ってはいますから。

 日本から遊びに来ている女性たちは、軽くて疲れにくい服装をしていて、全身おしゃれで、動作の一つ一つが細やかで……砂糖細工の小動物のように見えます。自分が旅行者のときは、「どうして私が日本人だとバレちゃうんだろう? やだなぁ、ニューヨーカーと何が違うのかな?」と不思議に思っていたのですが、小さくて便利な日本製のトラベルグッズなんかを身に着けていると、一目で分かったりするんですよね。「日本人だな」とすぐ分かったり、長く住んでいる人が街になじんだりするのは、特徴的な会話や振る舞いというよりは、そんな単純なことの積み重ねだったりするんでしょうね。

 影響を受けた本から東京とNYの女子の違いまで、さまざまなお話をしてくださった岡田さん。「似た価値観の人間」と付き合う姿勢や「しなくてもいいことは、しない」という心掛けからは、毎日を少しラクにしてくれるヒントが見つかりそうです。

聞き手・文/飯田 樹 写真/竹井俊晴

岡田育(おかだ・いく)

文筆家。1980年東京都生まれ。出版社で婦人雑誌と文芸書籍の編集に携わり、退社後の2012年よりエッセーの執筆を始める。著書に「ハジの多い人生」(新書館)、「嫁へ行くつもりじゃなかった」(大和書房)、二村ヒトシ・金田淳子との共著「オトコのカラダはキモチいい」(角川文庫)。2015年夏より米国在住。パーソンズ美術大学グラフィックデザイン学科修了。近著に「「天国飯と地獄耳」(キノブックス)。