歩みを止めず、続けていくことで異なる2つの世界を究めたい
可愛いらしい毛糸の帽子とコート姿のアン・サリーさんは、そのたおやかな歌声同様の優しい雰囲気。一方で、白衣に身を包む内科医でもある。平日は非常勤医師として病院に勤め、週末はライブ会場に立つ。さらには2児の母でもある。最新アルバムのオリジナル曲は、2人目の子を妊娠中、当時2歳の愛娘が寝た後に書き上げた。休みなしのフル稼働で大変そうだが、「歌うことは私にとっては休息みたいなものなので、大変ではないんです」とアンさん。「むしろ、医師とシンガーそれぞれの仕事が、それぞれの気分転換になっているような気がします」

アン・サリーさん
あん・さりー
愛知県生まれ。医大に進み、研修医時代からバンド活動を開始。卒業後も医師の仕事に従事しながらライブ活動を重ね、01年にアルバム『Voyage』でデビュー。医学研究のため3年間の米国留学を経て、帰国後も「医師」、そして「シンガー」としてライブ活動やアルバム制作を続ける。「2児の母」の顔も持つ
好きなことをもっと磨きたい
その思いが2つの道を開く

高校時代、音大と医大どちらに進むか迷うも、「両方できる道を選んだら」という父親の助言で医大へ。研修医時代、バンドのボーカルとして歌い続けるなかで、ある音楽プロデューサーとの出会いを機に、CDデビューを果たす。「歌うことが本当に楽しかった」というアンさんにとって、音楽だけで生きる決意もできそうなチャンスだが、その直後、医学研究のため3年間の米国留学へと旅立つ。「アルバムが出せたのは、単なるラッキーな出来事だと思っていました。音楽は続けたいけれど、一生の仕事として医師をやっていきたい思いが強かった。だったら、もっと高みを目指さないと本当の医師にはなれない気がしたんですね」
留学先は期せずして、ジャズ発祥の地、ニューオーリンズ。純粋に「自分の歌を磨きたい」という思いから、現地のミュージシャンとライブハウスで歌ったりもした。そのときに録音したアルバムが帰国後に発売になるなど、その後もプロとして音楽活動の場は広がり、今に続いている。
異なる2つのキャリアは、「それぞれに相乗効果を生む」とアンさん。「例えば医師の仕事だけだと、自分が医師としてどう見えて、何が求められているのか分からなくなってしまいがちです。音楽という別の世界を持つことで医師の仕事も客観的に見えますし、音楽を通じての多くの人との出会いが、患者さんの気持ちを知る参考にもなります」
そんなダブルキャリア生活を送るアンさんが心がけているのは、「気になったことはその日のうちに解決しておくこと」だ。
「医師のときは音楽のことは考えないし、その逆も同じ。でも、“あのときこう歌えば……”と気になることがあると医師の仕事にも集中できない。だから、歌うときは内臓が飛び出るぐらい全力で歌います(笑)」
そして日々、「なぜ医師なのか」「なぜ音楽を続けるのか」と考えるそう。自分を俯瞰して見つめないと、日々の忙しさにのみ込まれ、目指すべき道が見えなくなってしまうという。
少しずつ積み重ねることで
時間的なハンデを乗り越える
「医師の仕事は、目先の1、2年ではなく、辞めるその日までどれだけ勉強したかという積み重ねが大事。それは音楽も同じです。目指すレベルに達するまでには時間がかかるけれど、歩みを止めてしまうと目標は達成されないですよね。私は育児などで時間的なハンデがありますが、焦らず、細々とでも好きなことを続けていれば、両方とも目標に近づけていけると思います。誰でも好きなことっていくつかあると思いますが、たとえ仕事になっていなくても、その世界に触れ続けていれば、違う世界が開けていくような気がします」
子どもがもう少し大きくなったら病院の勤務時間も伸ばして経験を重ね、音楽も今と変わらずマイペースで続けていきたいと話すアンさん。ゆっくりと、でも確実に前進しているその姿は、ダブルキャリアでいることが人生の豊かさも倍にしてくれることを教えてくれる。
ダブルキャリア成功のPoint
●今やるべきことに集中し、その日のうちに解決
●なぜその仕事をするのか、時には俯瞰して考える
●目標に向かって、両方を少しずつでも磨き続ける




