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「イヤなことを確実に忘れる」意外な方法

2011年11月18日

「1年前の夕食の中身」が思い出せない理由

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 よいことはできるだけ覚えておいて、イヤなことはさっさと忘れる――。

 都合のいい「方法」のようですが、不可能ではありません。今回は特に、「イヤなことを忘れる」方法をご紹介します。その方法はというと、逆のようですが、本連載で繰り返し主張している「記録をとること」です。

 私達の頭脳というのは時に不都合な働き方をします。

 「忘れたいのに……」(失恋した相手のことなどについて)
 「覚えたいのに……」(英単語など)

 という嘆きはあちこちから聞こえてきます。今この瞬間にも悩んでいる人がいることでしょう。

 私達の頭は、私達のために働いているのですから、本来「忘れたい」ことは速やかに忘れる (消去) べきだし、覚えたいことは即座に頭に入る (記銘) べきでしょう。そういう風に機能しないのは、不思議なことです。

 「忘れる」ことがコントロールできないのです。これが不思議なところなのです。

 下のグラフは、1972年に辛抱強く自身の「エピソード記憶」を観察実験した、マリーゴールド・リントンによるものです(彼女の仕事は「Evernote」* があったらさぞ楽になっていたでしょう/*「Evernote」:様々な情報を保存することができるソフト)

◆「忘れる」とは「中身を思い出せない」こと
◆「忘れる」とは「中身を思い出せない」こと

 彼女はこの図について次のように述べています。

 ――試行(または経験)数は、エピソード記憶と意味記憶に対して対称的な影響を及ぼす。何らかの特定事象クラスの経験が増大すると、その事象およびその文脈に関する意味(または一般的)知識が増大する。しかし類似事象の経験が増大すると特異的エピソード知識が次第に混乱し、そして最終的にエピソードの区別がつかなくなる(『観察された記憶―自然文脈での想起(上)』p97)――

 身近な例でいえば、たくさん食事をしていると、「食事」に関する一般的知識が増大する一方で、1食ごとの中身の区別がつかなるのです。つまり1年前の夕食に何を食べたかは忘れるということになります。

 大好きな彼とのデートであっても、100回目にはさほど興奮しなくなるでしょう? さほどというのが言いすぎであるなら、「1回目」ほどは興奮しなくなっているはずです。

 そしてどれほど大切にしてきた関係であれ、100回の内容を全部区別できるかどうかは疑わしい。区別できなくなって、どれも同じ「デート」という「意味」になったとき、私達はあまり興奮しなくなっていくのです。

 つまり、「経験」が「文章」に変わったとき、感情的になる理由も失われるのです。

「具体的な記憶」と「抽象的な記憶」

 「不思議な不思議な池袋」では、「西武」デパートが「東口」に、「東武」デパートが「西口」にあります。この「知識」は大変便利です。都内大半の駅で道に迷う私が、池袋でまったく迷わなくなったのは、この知識を仕入れた以後のことです。

 抽象化の価値はここにあります。都心の大きなステーションは、目まぐるしく激しく変化します。店は変わる変わるし人はたくさん歩いているし、もちろん記憶は定かでないので、具体的な目印がなかなか役に立ちません。

 しかし「西武は東」というほぼ不変の、したがって非常に抽象化しやすい「意味」(「池袋では西が東」)の知識が一度頭に入ってしまえば、他のやたらと変化する具体的な事実(「『ねんりん屋』が新しく池袋にできたね」)などは、全部忘れてしまってOKです。

 どういうことかというと……。「『ねんりん屋』が池袋にできた」ことは具体的で写真に撮れます。感情の動く情報とはこうした情報なのです。具体的で、情報量が多く、よく変化する事柄です。

 一方で「西は東」というのは写真に撮りにくいわけですが、情報量は少なくしかも変化しません。おそらく脳は、「『ねんりん屋』ができた」とか「新しいイタリアンのレストランができた」といった情報を全部とっておくのでは負担が大きいので、できればさっさと抽象化したいのでしょう。抽象的な情報なら、面白味はなくても負担も少なくて済みます。

 私達は年齢を重ねるにしたがって、どんどん「物忘れが激しくなる」と感じるわけですが、それは「エピソード」を抽象化して、どんどん「意味記憶」ばかりにしていく過程と考えることもできるわけです。たくさんの引き出しを何度も使っていれば、「引き出しにしまった」ということだけを覚えていても、どの引き出しにいつしまったかは思い出せなくなるということです。

「書く」と、「抽象化」が早まるから忘れられる

 さて、「記録に残すことで、イヤなことを忘れる」というのは、出来事の経験を「意味」に直してしまうことで、感情的に落ち着くという方法です。いわば出来事の「面白味」を削って、特徴と対策だけに絞ってしまうことといえます。

 そもそも「意味記憶」とは「言語で表記できる」ということ。言葉で書くということは「抽象化」に近い作業なのです。

 「イヤなこと」という抽象的な「問題」に対しては、「対処法」があります。ちょうど池袋駅が大幅に改築されても、「西武は東」であることに変わりなく、その点にのみ注意していれば道に迷わないのと一緒です。

 「さっき遭遇したイヤなこと」を事細かに思い出していても気分が悪くなってしまうだけですが、「イヤなこと一般」への対処方法は記憶にあります。「イヤな気分」への対処の仕方も脳が覚えているでしょう。20年くらいのデータベースがあれば、出てくるはずです。

 つまり、忘れてしまいたいことを経験したら、さっさと記録に残し、「イヤなこと」への機械的な対応策も併記して、抽象化するべきなのです。いやなことは「思い出」ではないのですから、細部まで頭に残して気分を悪くする必要はないはずです。ぜひ、「忘却力」を身につけてください。

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佐々木正悟
佐々木正悟
心理学ジャーナリスト。「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。1973年・北海道生まれ。ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程で学ぶ。
ブログ「ライフハック心理学」主宰
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