ウーマンオブザイヤー2011

中国で語学教師、OLを経て経営者に(2/2)

2011年3月29日

日本語教師時代
22歳。湖南師範大学で日本語を教えた生徒たちと(左から3人目)。「みんな優しく、慕ってくれました」
部品メーカー時代
25歳。未経験の部品メーカーで次々と仕事を任され、深夜までがむしゃらに働いた
蘇生水の営業に走り回る
33歳。中国市場の厳しさに苦しみながら、企業やスーパーなどを訪ね、「蘇生水」を自ら宣伝、営業した
20代にしてよかったこと
海外経験をしたこと。いろいろな国の人との接点があり、常識の幅が広がった
30代にしてよかったこと
起業したこと。責任を持って一つの会社を動かす醍醐味を経験できた

 中国広東省深圳の工場街で、「蘇生水」と書かれた箱が次々にトラックに積まれる。ジーンズ姿で見守るのは日本人の熨斗麻起子さん。ここ深圳で、日本のろ過技術を使い蒸留、活性化させた自社ブランドの飲料水「蘇生水」を生産販売し、年商1億2000万円、中国人従業員48人を率いる会社社長として活躍している。大学で日本語教育を専攻し、22歳のとき中国・湖南省での日本語教師の職に飛び込んだ。その後15年間、中国を拠点に活躍。海外に定住してビジネスを行う日本人「和僑」としてキャリアを切り開いてきた。

 最初の転機は24歳のとき。

「湖南師範大学で2年半、日本語を教えましたが、自分に社会経験がないと教え子に的確な助言ができないと気づいた。教師として成長するため、日本で就職先を探すことにしました」

 帰国途中に立ち寄った香港で、試しに日系人材紹介会社に登録したところ、深圳にある日系部品メーカーを紹介された。「経験不問」という言葉に引かれ、入社を決めた熨斗さんが任されたのは、購買管理。部品の在庫や納期を管理する、工場で最も責任の重い仕事だった。

「納期は昨日だと顧客から催促が来て調べると、製造に必要な部品の発注もできていない。毎日想定外の問題が発生し、現場は大混乱していました」

「未経験だけど自分がやるしかない」と覚悟を決めると、不足品に似たサイズの別の材料を加工して代用し、納期に間に合わせるなどの発想がわいた。深夜残業もいとわず対応するうち、生産管理や営業にまで業務範囲が広がり、入社4年後には製造部長に就任。熨斗さんの功績で様々な改善が進み、取引先から「納期賞」を受賞し、会社の業績も上がり、従業員が400人から800人に増える成長を支えた。

厳しい中国市場を開拓 年間120万本を達成

 30歳のとき転機が来た。上司に、飲料水を売るビジネスの共同経営者に誘われたのだ。水事情の悪い中国で水を売るアイデアを面白いと感じた熨斗さんは、退社して共同出資者となった。その際、中国人従業員38人も、一緒に働きたいと退社して新会社に加わった。

 自ら営業責任者となり、「蘇生水」を販売開始。しかし、すぐに中国市場の厳しさに直面する。特に辛酸をなめたのが資金繰りの問題だった。「日系企業では当然だからと、代金請求を納品後の後払いにしたら、踏み倒された。競合他社は200社近くあり“日本人の売る水はいらない”と営業も難航した」

 貯蓄をはたき1年間無収入で働いた。起業仲間も様々な事情で会社を離れ、自分一人が責任を負う不満を知人への手紙に書きつづったとき、「実は自分は会社経営に近いすごいチャンスをもらっていると気がついた」。熨斗さんは再び奮起した。代金は納品時の現金払いに切り替え、経費がかさむ自社店舗を売却して中国人経営の代理店に卸す販売方式に変更。徐々に販路が拡大し、商品の良さも口コミで広まった。06年に総経理(社長)に就任し、現在年間120万本を売り上げ、代理店約160店を抱える。

「ここまで中国で頑張れたのも中国の人々のおかげ」と語る。

「現在、新工場を設立中。今後は水以外の事業にも挑戦したい」

Profile
熨斗 麻起子(のし・まきこ)さん
中国・深圳(しんせん) 可宝得環保技術有限公司 総経理(社長)
72年大阪府生まれ。95年神戸松蔭女子学院大学卒業後、中国・湖南師範大学で2年半、日本語講師を務める。97年中国・深圳の富山王氏有限公司(現・富山技研有限公司)に就職し、購買、生産管理、営業などを担当。02年飲料水を生産販売する可宝得環保技術有限公司を上司と立ち上げ、出資メンバーとなる。営業責任者として販路を開拓し、06年に年間売り上げ100万本を突破、総経理に就任。現在は年間120万本を販売、年商1億2000万円の企業に成長

【受賞理由】
単身中国に渡り、未経験の仕事に全力で挑み、チャンスをつかんで起業。会社社長に就任
商習慣の違う中国市場で、営業責任者として販路を開拓。飲料水ビジネスを成功させた
中国人従業員約50人を雇用。販売代理店160店の経営者はすべて中国人で、中国国内の雇用創出や産業振興に貢献

日経ウーマン 2011年1月号掲載記事を転載
この記事は雑誌記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります

この記事は役に立ちましたか?
働く女性のための「日経ウーマンオンライン」最新記事のお知らせを好きな方法で受け取れます。

  • メールアイコン

    11万2千人

    無料メルマガを購読する