4月のとある日、日本からウドが届いた。日本の食材を手に入れるのに困ることはほとんどないシンガポールだが、こういう季節モノは別だ。まず見かけることはないし、あっても手を出す気になれない値段で、しかもしなびていたりする。
届いたばかりのウドの皮をむくと、ふわりと日本の春の香りがして、なんだかとても懐かしい気分になる。日本にいたころには意識したこともなかったが、野菜の香りはとても重要だ。レタスやほうれん草、人参など、ごく当たり前の野菜にもそれぞれの香りがあって、新鮮であればあるほど香りも強い。
自給率が限りなくゼロに近いシンガポールには、世界中から食物がやってくる。だから、種類は豊富だけれど、スーパーに並ぶ野菜はあまり新鮮とはいえず、野菜らしい香りもほとんどしない。
日本の農家から直接届く野菜は、本当にいい香りがして、触ったり見たりしているだけでも気分が高揚してくる。新鮮な野菜には、何かしらの「元気のもと」が入っているに違いない!と思ってしまう。飛行機で野菜を取り寄せるなんて、ほめられた話ではないけれど、どうしてもやめられないのは、これらの野菜から本当にたくさんのパワーをもらっているからだ。
常夏のシンガポールで、日本の旬(特に冬)の野菜を食べることは、中医学が考える「季節や住む環境に合わせた食生活」(「住む場所や季節で体質が変わる?」)にはそぐわないかもしれない。けれどやっぱり、長いこと冷蔵庫に入れておいても、何の変化もない野菜より、放っておいたらあっという間に芽や根が出てくる野菜のほうが、エネルギッシュでいいなと思う。
そんなことを考えたのは、このところ急に、ジャガイモの芽が出るのが早くなったから。日本にいるときは、「暖かくなってきたのだから当たり前」と思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。一年中暑いシンガポールでも、そして、ずっと冷蔵庫に保管していても、冬と春のジャガイモには大きな違いがある。ナンセンスと言われるかもしれないけれど、ジャガイモが日本の春のエネルギーを蓄えてシンガポールにやってきた、としか思えないのだ。
何はともあれ、日本に住んでいる人なら、あまり難しいことを考えなくても、その時期にいちばん安くて元気な野菜を食べるのがやっぱりいいと思う。季節の移り変わりとともに、野菜の味も変わることを意識して、旬の野菜をたっぷりとろう。何も、ウドのような特別なものでなくてもいい。新キャベツや新タマネギなら、火も通りやすく、時間がないときにもさっと料理できるはずだ。さっと炒める、あるいは、かつお節としょうゆで和えるだけでもいい。素材が新鮮なら、シンプルな調理法でも十分おいしいはずだ。
今年の春は天候不順で、野菜の出来にも影響が出ていると聞く。そんな中でもがんばって育った野菜、少々高くても慈しんでたっぷり食べてほしい。



