
昨年のクリスマスシーズン、デュッセルドルフに住む友人からメールが届いた。「ホットワインにレープクーヘン、街中にただよう香りは『お屠蘇』そっくりです」とある。そのときはピンと来なかったのだが、お正月に熊本の漢方医院からお手製の屠蘇散をいただき、香りを嗅いだとたんに納得。クローブ(丁子)、シナモン(桂皮)、柑橘類の皮……ドイツのお菓子や飲み物によく使われるスパイスや食材が入っているのだ。
スパイス類は、東洋から西洋に渡ったものが多いため、アジアでも欧米でも同じような使い方をすることがある。クローブやシナモン、生姜などはその代表といえるだろう。食用としてだけでなく、薬用にするところも共通している。
薬としても使われる食材は、スパイス以外にもたくさんある。身近なところでいえば、黒豆、小豆、ゴマ、紫蘇、はちみつ、銀杏、ヤマイモ、ハトムギなど。数え上げたらきりがないほどだ。食と薬の境目は極めてあいまいで、どんな食材にも必ず何かしらの作用がある、というのが中医学の考え方。しかしそれは、中医学的なリクツに裏付けされてこそ役立つもので、食材の効用だけが一人歩きすると、思わぬ誤解が生まれることもある。
例えば、巷でよく聞く「体を温めるもの、冷やすもの」といった表現。これは、中医学の「四性」という考え方がもとになっているのだと思う。四性の「性」というのは食材や薬材の性質のことで、熱性、温性、涼性、寒性に分類され、どちらにも偏らない「平」性も加えて「五性」とされることもある。このうちの「温・熱」に分類されている食べものは、一般的に体を温めるとされているけれど、じつはそうでない場合もあることは、案外知られていない。熱性や温性のものには、温める作用だけでなく、発汗作用や興奮作用、血のめぐりをよくする作用などがあるし、寒性や涼性の食べものには、鎮静させる作用や熱を冷ます作用、ある種の解毒作用、通便・利尿作用などがある。だから、場合によっては「興奮作用」があるために温性に分類されていて、体を積極的に温める作用はない、ということもあり得るのだ。
そして、この四性についての「絶対」はない。「住む場所や季節で体質が変わる?」で書いたように、育つ環境によっても違ってくるし、そもそも作用が穏やかではっきりしない場合もあるだろう。特に、最近になって食されるようになったものは、中医学的な解釈もあいまいなものが多い。例えば、コーヒーの「性」は、専門家によって意見が違う。カフェインによる興奮作用で「温性」とする意見もあれば、利尿作用から「涼性」とする説もある。でも、研究者ならともかく、コーヒーをただ楽しみたいというのであれば、「どちらが正しいか」なんて考えずに、嗜好品と割り切って飲むほうが健康的な気もする。「ああ、おいしい!」と思って飲んだり食べたりすることで、そのものが持っている作用以上の働きを心と体に与えてくれることだってあるのだ。
そんなことさえ踏まえていれば、「体を温める/冷やす」といった知恵は、とても分かりやすいし、現代栄養学にはない考え方であるため、日常生活に役立つことも確か。実際、冷やっこに紫蘇や生姜、そばにワサビやネギを添えるなど、知らないうちに「寒熱」のバランスをとっていたりもする。日本にもちゃんと先人の知恵が生きているのだ。
寒熱のバランスは、食卓の上だけではなく、気候や風土にも合わせる必要がある。寒さが厳しい地域や冬には、体を温めたり、血行をよくする温熱性の食物を、夏や暑さが厳しい地域では、体の熱をさましてくれる寒涼性の食物を多めにとる、といった具合。さらに、自分の体質に合わせたバランスを考えることができれば言うことなし、である。というわけで、次回は自分の体に合わせた知恵の活用法について紹介したい。



